(↑クリックでPDFをダウンロード)
産室から赤ちゃんグマの鳴き声が!?
今か、今かと
1月に入り、野生のヒグマは冬眠をしつつ、その巣穴で出産もする時期になってきました。昨年12月下旬に、出産のために産室に引っ越した4頭のメスヒグマ、ホノカ(6才)、ラッキー(6才)、アナ(6才)、マロン(8才)はどのような状況になっているのか。観察カメラや飼育員が観察したときの様子をお伝えします。
昨年の繁殖期となる5~7月にオス個体との同居(ペアリング)を行った自然繁殖個体であるホノカとラッキー。この2頭は、とても良好な冬眠状態です。ワラを集めてふかふかのベッドを作り、ほとんどの時間を寝て過ごしています。飼育員が観察に来た時は、チラッと見上げるように確認してきますが、とても落ち着いています。特にラッキーは、好物のリンゴをあげても見向きもせずに寝ているくらいガッツリ冬眠モードです。
研究段階の人工授精を実施したアナとマロン。この2頭もワラのベッドで落ち着いて寝ていますが、アナのベッドは少し形がボサボサで、飼育員が来ると低く短い鳴き声を発するようなこともあります。少しずつ異なる産室の状況ですが、ついに1月17日、ラッキーの産室から1頭分の赤ちゃんグマの鳴き声が確認されました。ほかの産室からも早く聞こえてこないかと、今か今かと緊張しながら見守っています。
今月の飼育員のベストショット
きょうのくまさん
クッタと双子の兄弟です。母グマであるカコ譲りの、輝く金色の毛並みが特徴的。飼育員が獣舎の水洗を行う際には、ホースから出る水に前肢を当てて邪魔をするなど、見た目は大きいですが、中身はまだまだやんちゃな5才のクマです。ちなみに名前は、北海道の「海」から付けられています。
クマ山にも本格的な冬到来
最高気温でも氷点下になる登別の1月。ついにクマ山にも本格的な冬がやってきました。積もった雪はいつまでも居座り続け、クマの糞もガチガチに凍ります。空気中の水分の影響で獣舎の南京錠も凍ってしまうため、施錠や解錠時には、飼育員に支給された専用のターボライターで南京錠を温めないと、開閉ができなくなります。
そのような過酷な環境のなか、飼育員が凍えながら業務に勤しむ横で、若いヒグマは元気にレスリングをして遊び、年配のクマたちは気持ちよさそうにスヤスヤと寝ています。ヒグマだけでなく、エゾリスも木の枝や雪の上を駆け回り、アヒルに至っては水浴びをしています。寒さに適応した毛や羽、皮膚など、動物の凄さを強烈に実感させられます。極寒にも適応した動物の凄さもさることながら、雪化粧をしたチセ(アイヌの住居)、枝が真っ白になった樹々、無数の氷柱を見ていると、本格的な冬が来たという実感がさらに強まります。
飼育員一同、寒さに負けず頑張っています。
リニューアルオープン&リスのお引越し
エゾリスの展示施設をリニューアルし、エゾリスたちも、お引越しをしました。メスのサンとサツキは丸太小屋へ、オスのクシルは屋外のリス舎にて展示中です。
丸太小屋は、中に設置していた木々を取り換え、地面も掘り起こしました。野生では木の茂る環境に生息するため、より自然に近い状態になるよう、単純に木を固定するのではなく、枝が絡み合うように工夫しています。また、丸太小屋は部屋が2つあるため、地面が落ち葉の部屋と土の部屋に分けました。異なる地面で、お気に入りの場所を見つけ、餌を隠す様子が頻繁に見られています。2つの部屋の間には、人間は通ることのできないリスの秘密通路があり、自由に移動することができます。
クシルは野外リス舎への引っ越し後、常同行動がなくなり、日によって変わる景色や匂いを堪能しているようです。気温が低く風の強い日は巣箱にいることが多いですが、ぜひ温かく見守ってください。
マニアの独り言。
最近、朝の眠気がすごいんだよなぁ。いいな。野生のヒグマはずっと寝てて。でも冬の間ずっと飲まず食わずって、仙人みたいな話だな。そもそも、冬眠中の呼吸商が0.7だから脂肪を「エネルギー」にしているというけど、エネルギーだけでなく、脂肪からアミノ酸や糖も合成しているわけか。すごいな。
でも、もっとすごいのは「水」の確保だよな。膀胱の尿から水を再吸収しつつ、脂肪燃焼の化学反応で生まれる水さえも利用しているというのは、どういう次元の話なのか。水側も脱帽だよ。
しかも、数か月も寝ていて筋肉が衰えないのは、ミステリアスだな。最近、ヒグマの筋細胞を維持する遺伝子が特定され、筋細胞内にある非必須アミノ酸が関与していることも分かったし、筋細胞内のエネルギー需要にもかかわる解糖系が制御されていることも分かってきた。このヒグマの筋肉が衰えないメカニズムは、人の筋委縮症の治療にも期待されていたな。本当にヒグマってすごいな。
そうか、ヒグマは仙人ってことなのか。よし、そろそろ起きるか。