繁殖期には、繁殖期のエンリッチメントを。~換毛期と繁殖期が重なる奇跡~

のぼりべつクマ牧場では、複数頭のヒグマを飼育しており、オスもメスも多く飼育されています。
そのような中で、すべての個体が繁殖をするわけではなく、繁殖管理計画に基づいて適切な目標頭数を設けて毎年の繁殖数を決定し、血統や相性を考慮して繁殖する個体の組み合わせを検討しています。
そのように調整されている繁殖個体は1年で2~3ペアほど。つまり、ほとんどが実際に繁殖の機会はない状況になっています。

しかし、繁殖期になると本能にインプットされた繁殖欲求は性ホルモン濃度の上昇と共に高まります。そして、その欲求が高まっているにもかかわらず、機会がない状況のままでいるとストレスとなり、異常行動が確認されるようになってしまいます。
繁殖欲求と異常行動は強いかかわりがあり、近年のある研究によると、オスのジャイアントパンダでは常同行動が多い方が繁殖能力は高いという研究結果も出ています。
ヒグマも繁殖期になると、オスはメスを求め、メスはオスを求め、ウロウロとし始めてしまいます。しかし、繁殖管理の観点からすべてのオスとメスを合わせることは出来ません。

難しいこのような事態を解決するべくエンリッチメントを考えました。クマ牧場なので頭数は多い。オスはいる。メスもいる。そして繁殖期は換毛期。壁や格子、通路などそこら中にフワッフワの抜け毛が散乱しています。

ヒグマの抜け毛。そこらじゅうで散乱している。

そこで、換毛期に抜けた毛を採取して、異性の存在を間接的に感じてもらうことを目的に毛のエンリッチメントを実施してみました。
オスにはメスの毛を、メスにはオスの毛を与えてみました。嗅覚コミュニケーションに特化したヒグマの能力を利用した「異性の毛」エンリッチメントです。

与えてみると、どうでしょうか。繁殖期に入って好物をちらつかせても反応せず異常行動を示していたヒグマも、毛の匂いを嗅ぎ、真剣に毛から情報を読み取っています。そればかりか、臭いコミュニケーションと考えられている「背こすり行動」をしたり、フェロモンを受け取る鋤鼻器(口腔内に開口部がある)に送っているのか毛を食べたりするクマもいます。
すべての異常行動を打ち消すほどの威力はありませんでしたが、異常行動が増える繁殖期には、とても有効なエンリッチメントであることが分かりました。

若いメスの毛に夢中な若いオス2頭


毛の反応グラフ

個体による違いや、タイミングの違いなど、色々なパターンを検証し、クマの欲求を少しでも満たしてあげられるようなエンリッチメントを考えていきたいと思います。