いつ、何がストレスになっている?「ストレス行動とエンリッチメントの重点時期」

ポイント:
①1日1回でも観察した行動を記録することが有用
②給餌直前と繁殖期に異常行動は増加

解説:
のぼりべつクマ牧場ではクマ牧場形態(コンクリートを主体とした飼育施設に複数頭のクマを集団で飼育する方法)で生活するヒグマのニーズを客観的に捉えるために、全頭1日1回の行動観察を行い、どのような行動をとっていたか記録をとっています。

観察された行動は、事前に定められた行動項目(摂餌、探査行動、単独遊戯、社会的行動、休息、攻撃、異常行動)より記録しています。記録用紙は下記のようなものを用いて、各ヒグマを1頭ずつ確認しながら、正の字で記録をしています。

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記録した行動は「各行動観察頭数/全観察頭数」として、割合で算出しています。また、推移を把握し、過去の記録をすぐに見返せるようにするためExcelファイルに入力しています。

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行動観察を約2年間継続していった結果、2021年、2022年ともに同様の季節変化がみられ、人工的な環境でも野生下での生態に応じた季節変化を配慮する必要があることをあらためて確認できました。

2021年の結果から、異常行動が最も多い季節は繁殖期であると考えられました。繁殖期にはオスはメスを、メスはオスを求めるニーズが高まると予想されますが、過密飼育を避けるうえで繁殖期に全てのクマに雌雄同居の環境を提供することは困難な現状があります。そこで、2022年の繁殖期には異性へのニーズを考慮して異性の糞や毛を用いた異性の痕跡を提示するエンリッチメントを実施したところ、異常行動が減少する結果も得られました。行動記録を行い、異常行動の推移を把握することで、飼育下のクマのニーズを捉えることができ、それらのニーズに対応することが可能になることもあります。

また、1日1回の行動観察をどの時間帯に実施するのかということも重要な課題ですが、のぼりべつクマ牧場では、取り組み当初は1日複数回実施し、最も異常行動が多くみとめられた時間帯に設定しました。

取り組み当初の異常行動は11時頃が最も多くなる傾向がありましたので、この時間帯に行動観察を継続しています。この時間帯は餌の準備をしている時間帯ですが、特に給餌直前に常同歩行や扉を叩くなどの行動がみられることがあります。これらは餌への欲求から現れる異常行動と推測され、餌を探すことや食べること自体への欲求が大きいことが推測されます。これらのストレスを軽減するために、現在は採食時間を延ばす取り組みや、満腹になってもらう取り組みをおこなっています。具体的には、採食時間を延ばす取り組みとしてタイヤや穴を開けた浮き球(漁具)に餌を入れて与え、満腹になってもらう取り組みとしては低カロリーなものを多く与えられるように繊維質の豊富なビートパルプペレット(砂糖大根を細断し、糖分を搾った残滓を乾燥した牛用の飼料)を与えています。

繁殖期には、異性への欲求を考慮して糞や毛などの異性の痕跡を獣舎内に提供するなどしてストレスの軽減を図りました。そのような試行錯誤の結果、異常行動の割合は上がったり、下がったりを繰り返しながらではありますが、2年間で徐々に減少していく結果も得られました。

このように、餌に関する欲求と繁殖期に高まる異性への欲求は、日々の作業で忙しいなかでも重点的に取り組む価値のある重要な欲求であると考えられます。