~はじめに~
日本国内では、人間活動の変化によって、近年、クマの駆除数や目撃数が増加するなど、人間とクマの軋轢が増加しています。そのような軋轢を減らしていくためには、クマを恐れるだけでなくクマを知る場の存在は大変重要と考えています。
のぼりべつクマ牧場では、クマの個体差を実感できる展示手法で、多様なクマがいることをお伝えしており、また、ヒグマ博物館も併設し、学術的な情報の普及にも努めています。さらに、ヒグマとの軋轢を減らすためにはヒグマ自体の科学的な情報の蓄積が必要であるため、複数の大学との共同研究も継続的に行っており、ここ10年で、国内では20以上の学会発表を行い、計8本の論文が英文の学術雑誌に掲載されています。
そのようななかで、クマ牧場でのクマの飼育環境についても課題を捉え、動物福祉の向上を目指していく方針を立てました。
のぼりべつクマ牧場は、60年以上の歴史をもつクマ牧場形態の先駆けとして、国内のクマ牧場の動物福祉向上も目指し、クマ牧場形態での課題をどう克服していくのかに焦点を当て、クマ牧場形態での動物福祉向上のノウハウ確立を目指していきます。
人の安全面を優先した高い壁で囲まれた飼育場と集団飼育という「クマ牧場」形態の飼育場において、長年の経験に加え、観察によるクマの行動データを蓄積し、客観的な指標に基づいたより良い飼育管理方法の確立を目指し、「クマ牧場」の飼育管理の向上に努めます。
毎日の観察に加えて、毎週1回は全頭の行動データの数値化を行い、現在の飼育環境では、どの時期に、どのような動物側のニーズがあるのか、科学的な視点で分析することを目指します。
ハチミツを用いた無麻酔採血において全頭の10%以上での成功を達成させることを目指します。
ツキノワグマ「ノビタ」で白内障手術が成功し、クマでの白内障手術が可能であることが確認された今、高齢個体においても眼科検診体制を確立し、個体ごとの健康管理の向上に努めます。さらに、国内外問わず外部機関との連携を活かし、最新の情報と現場のモニタリングデータに基づいたエンリッチメントの充実に努めます。
日本にはクマ牧場が各地にありますが、クマ牧場形態で活用できる動物福祉およびエンリッチメントの情報は乏しい現状があり、これらを改善するため、クマ牧場の先駆けとして自社サイトでデータベースを作成し、広く情報を活用できる状態の整備に努め、国内のクマ牧場全体の動物福祉の向上に努めます。