のぼりべつクマ牧場の獣舎では消防ホースとタイヤを使ったエンリッチメント器具を利用しています。天井など高い場所から消防ホースを吊るし、下部にタイヤを結び付けて、タイヤが揺れるようにしているものです。多くのクマたち、特に若いクマたちは設置するとすぐにタイヤを噛んで引っ張ったり、前肢で揺らしたりして利用しています。
しかし、問題は、この先にありました。設置したままにしていると、利用頻度が減ってしまうことでした。
エンリッチメントは、一度きりの効果では意味がありません。出来るだけ長い時間、理想を言えば飼育している間はずっと効果があることが望まれます。設置したエンリッチメント器具の利用頻度を増すには、変化をつけることが効果的です。その変化の頻度が増せば増すほど、野生下での「未知との遭遇」「季節変化」などの経験と重なる部分が出てきます。
そこで、のぼりべつクマ牧場では獣舎の構造を利用して、逆さにしてみました。タイヤが上、消防ホースが下です。しかも、タイヤは獣舎の格子の外です。
こうすることで、タイヤを獣舎から離れるように引っ張って置いておけば、獣舎内の消防ホースは短くなり、固定されていないのでクマが「引っ張り戻せる」という状況が、この単純な構造で生むことができます。
また、タイヤが格子にひっかかるので獣舎内には完全に入らず、再度、飼育員がタイヤを引っ張って置いておけば、クマが消防ホースを引っ張り戻せるようになります。
飼育員が通るたびにタイヤを動かせば、繰り返し効果が出て、さらには、タイヤが動いているかどうかでクマが利用したかどうかも分かります。
見た目は単純ですが、以前の構造と比べると、意外に今までにないメリットが得られます。
実際にこのエンリッチメント器具で遊んでいる様子がこちら。
「引っ張れるのかな」「引っ張れないのかな」という可能性がクマの獣舎生活の中で、少しでも刺激になっていればと思います。