再び光を見た「ノビタ」さようなら
2020年6月18日9時、ツキノワグマの「ノビタ」が享年22才で息を引き取りました。2018年に前代未聞のクマの白内障手術を終え、失明状態から復活したノビタでしたが、2019年夏より腎臓の機能低下が疑われ、薬や食事療法をおこなっていました。2020年6月17日に餌を食べなくなり、翌日息を引き取っています。死因は、病理検査結果から「左心不全」とみられています。腎機能の低下は、心臓にも負担をかけることがあるため、これらの関連を調べるために大学で詳細の検査を行っています。
ノビタのこれまで
ツキノワグマの「ノビタ」は阿蘇くま牧場で生まれ、1998年4月13日に、のぼりべつクマ牧場に来場しました。看板グマとして、当時行われていたショーに出て、三輪車を漕ぐなどをしてお客様を沸かせていたそうです。明確な記録はありませんが、いつしかノビタは眼の水晶体が白濁してしまう白内障を患うようになり、2000年代にはショーにも出られなくなっていました。視力が低下していくなかで、自力で餌を探すことや、広い放飼場に出ることが困難なため、自分の部屋のみでの生活を余儀なくされていました。
そのような状況のノビタに転機が訪れました。2017年に酪農学園大学の眼科獣医師「前原誠也」先生が往診に来てくださいました。そこから話は急展開となり、2018年夏には白内障手術を終え、再び光のある生活に戻ることができました。
※白内障手術の詳細は→https://bearpark.jp/doctor-report01/
術後すぐは、目が見えることに驚いて、警戒する行動が著しくなっていましたが、手術前には気づかずに蹴ってしまっていた足元の餌を、術後3日目には目で見て気づいて近寄り食べているのが確認されました。
見えるようになったノビタは、非展示の放飼場で、外の景色を眺めたり、丸太の遊具を使ったり、背こすりをするなど活発な生活を送っていました。見えるようになってからは、ノビタの部屋にも消防ホースのハンモックやワラを入れておくと、自分で整えて寝床をつくって眠るようになりました。消極的だった行動が、とても積極的になり、深夜におもむろに消防ホースで遊びだしたり、餌を隠しておくと見つかるまで探したりする姿もみられていました。見えるようになり、いろいろなものに驚くこともあったため、お客様の前に出てご覧頂くことはできなかったものの、ノビタの生活の質は大変向上していました。
ノビタが私たちに伝えてくれたもの
ノビタは、ツキノワグマでは前例のない白内障手術を終え、クマの白内障手術も不可能ではないことを教えてくれました。そして、クマの白内障手術の先に、生活の質の著しい向上があることも伝えてくれました。高齢動物のケアの在り方、人の温かさ、そして、クマの生命力の強さを力強く伝えてくれました。そして、ノビタの白内障手術のニュースは登別にとどまることなく、日本全国、世界を駆け抜け、NHKのWorld Newsやラジオ講座の教材にもなり、多くの人に「やればできる」という希望や勇気を与えてくれました。
今頃、ノビタは天国で眩しがりながら走り回っていることでしょう。ノビタ本当にありがとう。