2025年4月13日にのぼりべつクマ牧場のエゾヒグマ「イモリ」(メス)が死亡しました。36歳でした。
イモリは1989年1月26日に母マミの産室にて誕生しました(イモリが誕生した当時は雌雄同居飼育をしていたため、父親は不明となります)。2001年からは第二牧場のメンバーへと加わり、おとなしく控えめなアピールでお客様からおやつをいただいていました。2006年には現在18歳となるスミリを出産し、元気で活発な女の子に育ててくれました。
26歳となった2015年の10月頃に体調不良が確認され、体力の低下に伴い第二牧場を引退し、バックヤードで生活していました。同じように第二牧場を引退したヒバリやテンテンとは特に仲が良く、くっついて寝る様子などがみられていました。
そんな中、昨年の10月頃から動作緩慢な様子が定期的に確認され、食欲の低下がみられる日もありました。血液検査の結果から細菌感染による体調不良が疑われたためオリへの隔離を行い、集中的な治療を実施しました。その後は治療の甲斐もあり、12月下旬には血液検査上でも異常を認められず、自力で飲水及び摂餌が可能になったことから、元の群れに戻すこととなりました。獣舎へ移動後は、他個体と同様にワラを利用しての冬ごもりをしていました。
しかし冬ごもり明けの4月4日より自力での体勢変更に時間を要し、横臥のまま移動する様子も確認されました。翌日には摂餌欲の低下が認められたため、再度オリへの隔離を行いました。隔離した日の血液検査結果からは細菌感染が疑われましたが、投薬治療により症状は一時的に良化し、食欲も通常餌である配合飼料を自力で摂餌できるまでに回復していました。
しかしながら4月7日を境に食欲低下が進み、四肢起立時にはふらつく様子が確認されていたため、定期的な血液検査及び補液を行っていました。11日に行った血液検査結果からは、細菌感染が継続している様子と、重度の腎障害が疑われる数値が確認されるのと同時に、貧血および脱水状態が確認されたため、連日の補液と抗生剤の投薬が必要であるという状況が分かりました。
その後イモリの今後について協議するために倫理委員会を開きましたが、当日の朝の様子が良化傾向に見えるということもあり血液検査上では異常な数値を表していたものの、まだ治療の余地があるという点から、まずはできる治療を全て施した後の様子を見ることとなりました。しかし、治療を行ったにも関わらず、血液検査では腎障害の悪化と肝障害を呈しており、その日の夜には起立できないストレスのためか、落ち着きなく四肢を動かしている様子が確認されました。
4月13日に2回目の倫理委員会を開き、イモリの今後について議論の結果、治療の効果が期待できず、予後不良であると推測されたため、誠に苦渋の決断ではありましたが安楽死処置を施すことになりました。
病理解剖の結果、両方の肩関節と首の関節に膿が溜まっている様子が認められ、細菌感染による関節炎が疑われました。血液検査上で異常が疑われた腎臓は、血流が止まり壊死した組織が散見され、細菌感染や脱水等が影響し障害を起こしていたと考えられました。また、肝臓自体は肉眼的には比較的正常でしたが、胆汁の流れがやや悪く、これは充分な摂餌や飲水ができていなかったためと考えられました。
イモリは今後のクマたちの飼育管理向上のためにも大変貴重で重要な知見を与えてくれました。今後、大学など研究機関にも協力をいただきながら、より詳細な病態の特定を進めていく所存です。
イモリから学んだことを活かし、今後クマ達に起きる様々な異常の早期発見に努めていきます。身をもって多くのことを教えてくれたイモリには本当に心から感謝しております。
今後もクマの疾患を予防、治療するための知見を蓄積していくとともに、今までのイモリとの思い出を懐かしみ、現在のクマたちの福祉向上に全力を尽くしてまいります。