エゾヒグマ「クンチャン」が亡くなりました。

2024年11月16日にのぼりべつクマ牧場のエゾヒグマ「クンチャン」(メス)が死亡しました。30歳でした。

クンチャンは1994年2月5日に、ユウタとリリィの間に生まれました。「クンチャン」という名前はお客様からの応募で、絵本『こぐまのくんちゃん』シリーズの主人公(主熊公?)をもとに名付けられました。第二牧場では仲良しのレガリアと横に並び、舌先を丸めて口の先から出すアピール方法で、控えめながらもおやつのアピールを積極的に行うクマでした。誕生日には遠方から浮き球や果物のプレゼントが届く程、熱烈なファンも多いとても人気のクマでした。

11月1日から急に食欲が無くなり、動きも鈍く、便の状態から消化管からの出血が疑われました。腹痛症状が確認されたため、第二牧場への展示放飼を中止しました。11月3日に麻酔下にて血液検査や超音波検査などを実施し、投薬や補液処置を行いました。検査結果から、低栄養状態と腹腔内に液体(腹水)が溜まっているのが確認された他、腹部に腫瘍を疑う構造物が認められました。処置翌日には食欲が少し戻り、自ら餌を食べる様子が確認されていましたが、6日になると再度食欲廃絶となり嘔吐も認めました。その後も約3日おきに状態の悪化がみられていました。

麻酔の負担を考慮し、都度鎮静下で治療を行いましたが、状態の改善を維持することはできませんでした。より詳細な検査をすべく、専門機関に依頼して精密検査(超音波検診)を実施しました。検査により小腸の一部にて異常が認められ、症状と照らし合わせても腫瘍性病変が疑わしいという診断となりました。この間も消化管からの出血が持続していることが疑われ、重度な貧血が起きていました。

11月15日に倫理委員会を開き、クンチャンの今後について協議を行いました。手術をして病変を切除する積極治療の選択肢もありましたが、年齢や体力的に耐えられるか、という懸念もあげられました。協議の結果、外科手術の実施はクンチャンにとって負荷が大きくなってしまうと判断し、誠に苦渋の決断ではありましたが安楽死処置を施すことになりました。

病理解剖の結果、小腸の一部に大網(胃に繋がっている膜)が癒着しており、その部位の消化管に潰瘍と狭窄が生じ、腸閉塞を起こしていました。また、大網の癒着部位とは別の場所には、消化管腫瘤も確認されました。生前の腹痛や嘔吐の症状は、消化管の潰瘍や通過障害によるものであり、投薬など内科的治療だけでは改善は望めない状況であったことが示唆されました。

クンチャンから得た大変貴重で重要な知見を活かし、今後のクマたちの飼育管理向上に邁進していく所存です。身をもって多くのことを教えてくれたクンチャンには本当に心から感謝しております。
これからも、クマの疾患を予防するためのデータを蓄積していくとともに、今までのクンチャンとの思い出を懐かしみ、現在のクマたちの福祉向上に努めてまいります。